『国際経営のグローバル経営への進化プロセスについて論述しなさい。』
はじめに
多国籍企業とはどのような企業であり、国内企業の海外事業経営とどこが異なっているかという議論から出発する。次いで、国際経営のグローバル経営への進化プロセス、その過程での国際経営組織の諸問題が考察される。
1 国際経営戦略の特徴
1.1国際経営は進化する
国際経営は多くの場合、自社製品、サービスの販売のための海外市場開発を目的とする。また、国際経営企業はその国際事業経験や経営者の志向性を反映して、輸出企業→国際企業→多国籍企業またはクローバル企業へと進化する可能性を持つ。(1)
1. 2国内経営戦略との違いは?
ルートの言葉を借りれば、企業の「国内生産と国際マーケティングのネットワークが地理的に拡張し、企業全体の総売上高と総利潤のうち、海外が占める比率が上昇してくると、本社におけるトップのライン管理者とスタッフ管理者が、地理的立地とは無関係にすべての事業に対する戦略上の指揮と統制を任務としながら、次第に国内的視野からグローバルな視野へ移行していくことになる。」この段階において、「本社の経営者がグローバルな基準で計画し、調整し、統制し始めると、国内事業と海外事業を区別する伝統的見方は消えてゆき、経営者は親会社と多数の在外子会社を単一事業システムとしてとらえるようになる」すなわち、真の意味での多国籍企業ないしグローバル企業の誕生である。(1)
2 国際マーケティング
2. 1国際マーケティング概念とマネージメント・プロセス
2.2マーケティングの役割
マーケティングは企業のなかの一部門にすぎず、マーケティング分門だけがマーケティング発想をし、マーケティング業務をするという考えは重大な誤解である(コトラー「1999」、26-30頁)。今日、マーケティングは経営哲学や経営の羅針盤として、全社的に支持され、実践されており、ますますその重要性を増している。
かといって、マーケティングがトップマネージネントの経営哲学だけに昇華してしまったのでもない。マーケティングは、どの部門に所属していようとも、すべての従業員がもつべき経営哲学であると考えられるようになったのである。すなわち、いまやマーケティングは、「組織の隅々にまで溶け込んでいる」(IMD Ineternational et al,「1997」、36頁)である。
こうした全社的なマーケティング志向の経営、ないし戦略的マーケティングの重要性が唱えられるようになったいちばんの背景としては、近年におけるますますの競争の激化を指摘する。
2.3国際マーケティングの定義
・広義の国際マーケティング概念
近年、一般に想定されている進化プロセスでは、国際マーケティングは、本国生産をペースとする輸出マーケティングからスタートし、しだいに現地市場拡張のための現地マーケティングに発展的に継承され、そうした活動が多国籍企業によって多数国の市場で遂行されるようになると、やがてはそれらがグローバルに調整、統合化され、グローバル・マーケティングの段階を迎えるというモデルが多い。
・輸出マーケティング概念
輸出マーケッティングは、基本的には、国内マーケティングの特定の海外市場への拡張である。製品やサービス、その他のマーケティング戦略にほとんど現地向けの適応、修正が加えられないときには、その延長マーケティングと呼ばれることがある。
・現地マーケティング概念
現地マーケティングは海外マーケティング、外国マーケティングと呼ばれることもあった。なお、それらと類似した活動はグローバルな経営視点からも行われるが、それは次に見るグローバル・マーケティングの一環として理解する。
・グローバル・マーケティング概念
グローバル・マーケティングは、一般的に国際マーケティングの進化モデルの最終段階に位置づけられる。輸出マーケティングおよび現地マーケティングが、親会社によるグローバルな視点からのビジョンとコントロールなしに、多数国相手に遂行されるようになると、結果として、各国間に研究開発、製品開発投資の重複、広告政策や価格政策等の国際的な非整合性などが生じやすい。また、各国の優れたアイデアや経験の他国への移転がスムーズに行われにくいこと、グローバルな行動範囲をもつ顧客の出現、さまざまな産業に見られるグローバル競争の激化なども、グローバル・マーケティングの出現の背景となる。
すなわち、グローバル・マーケティングとは、グローバル連結成果を最大化するという親会社の明確な経営ビジョンとコントロールの下に遂行される、グローバルに調整・統合化されたマーケティング活動である。なお、このような意味でのグローバル・マーケティングは、かつてはワールド・マーケティングと呼ばれることが多く、現在でも同義的に用いられることがある。
2.4国際マーケティングのマネージメント・プロセス
・戦略的マーケティングのマネージメント・プロセス
コトラーは、戦略的マーケティングのマネージメント・プロセスが次のような5つのステップから構成されると説明している(コトラー「1999」、46-47頁参照)。
R→STP→MM→I→C
R=調査(市場調査)。STP=セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング。MM=マーケッティグ・ミックス(一般には4Pとして知られているもの。つまり、製品、価格、流通チャンネル、プロモーション)。I=実施。C=コントロール(フィードバック、結果の評価、STP戦略とMM戦略の見通し、もしくは改革)。
すなわち、マーケティングは市場機会の調査(R)に始まる。まずは同じようなニーズや欲求をもつ消費者や顧客のかたまりからなるいくつかのセグメント(S)を識別する。そのなかで、自社がうまく満足させられるセグメントをターゲット(T)として選定する。そして、企業はそのターゲット・セグメントの顧客に対して、自社のオファーを巧みにポジショニング(P)して、他社よりも高い評価を得ようとする。
・ 進化の段階によって戦略の課題、フォーカスが異なる
以上のような戦略的マーケティング・マネジメントのプロセスは、上述のような国際マーケティング進化の各段階にも当てはまる。ただし、国際マーケティング進化の段階によって、それぞれのマーケティング戦略の主要な課題、フォーカス等がかなり大きく異なる。これまでの多くの国際マーケティング論では、その点が瞹味であったために、無用な混乱が生じていた恨みがある。以下では、前節で紹介したようなダグラス=グレイグの進化モデルに倣って、国際マーケティングを、①その初期参入段階としての輸出マーケテング、②その現地市場拡張段階としての現地マーケティング、③そのグローバル合理化段階としてのグローバル・マーケティング、という3段階の区分を前提として議論を進める。
3 国際マーケティング戦略の展開
3.1輸出マーケティング戦略
先進諸国の大規模製造企業のほとんどは、すでに1950年代後半から60年代にかけて、初期参入段階を経験しており、現在、国際市場への初期参入段階にあるのは典型的には先進国の中小企業と発展途上国企業である。
第1に、初期参入段階の輸出マーケティングのマネージメント・プロセスは、R(マーケティグ調査)から始まる。外国市場への輸出は、外国からの偶然のオーダーや自社経営者の思いつきから始められるかもしれないが、本格的な輸出マーケティングの展開のためにはより体系的なマーケティング調査が不可欠である。
・地理的・文化的に近い国が選定されやすい
第2に、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)である。この初期参入段階でのS(セグメンテーション)戦略では、まずは国の選定を目的とする国単位での政治・経済的、地理的、人口統計的諸要因を基準とする世界各国の分類と候補国スクーニングが行われ、次に、T(ターゲティング)戦略で、それらの候補国のうちから具体的な参入国・特定地域の選択が行われる。
第3に、そこでのMM(マーケティング・ミックス)戦略の展開は、各国での流通チャンネルの確保を前提とする。国際市場で成功している先進国企業の多くは、「良いものを高く売る」こと、すなわち相対的に品質の高い製品・サービス、高い価格をベースとするミックスを提供している。
・輸出経験が現地市場拡張の成功条件となる
第4に、そうした戦略が実施(I)されると、最終的にはC(コントロール)、すなわち経営成果がフィードバックされ必要な戦略見直しが行われる。初期参入段階では、輸出マーケティングの成果は国内ビジネスの成果ほど重視されないのが普通である。しかも、この段階では輸出から高収益を上げるというよりも販売量や市場シェアの確保がより重視される傾向にある。
3.2現地マーケティング戦略
第1に、現地市場拡張段階のR(マーケティング調査)では、現地ビジネスのいっそうの拡張を目的として、進出先市場の競争状況、消費者や産業ユーザーのニーズとウォンツに関する諸要条件、現地サプライヤーや流通業者などに関する供給条件等につてのより詳しい調査が必要となる。
・セグメンテーションとターゲットのアップグレード
第2に、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)戦略では、現地市場をより多様な基準(地理、人口統計要因のみならず、ライフスタイルや価値観などの心理的要因を導入)を採用して、よりきめ細かなセグメンテーションを行い、現地市場の長期的な拡張方向をにらみながら、当初のターゲット市場の拡大やグレードアップが図られる。例えば、日本の自動車メーカーが米国市場においてその主力車種をサブ・コンパクト・カーからしだいに排気量の大きい上級車に移行し、逐にはメルセデス・ベンツと競合する最高級車(トヨタの“レクサス”など)のセグメントにまで手を伸ばしていったのがその好例である。
・現地志向的なマーケティング
第3に、MM(マーケティング・ミックス)戦略であるが、現地国での各ターゲット市場に対して最も効果的なミックスが選定されることになる。製品・サービスは現地にますます適応化したもの、あるいは現地仕様のものとなる傾向があり、流通チャンネルの開拓・整備がいちだんと進み(巨額の投資をして自前の流通チャンネルを構築することもある)、プロモーション支出も増加する。
第4に、そうした一連の戦略が実施(I)され、その後に、C(マーケッティング・コントロール)が行われる。この現地市場拡張段階では、企業は各国での経営成果の最大化を追求する傾向が強いので、グローバルな連結成果の最大化は実現しにくい。例えば、かつてのGMは進出先国向けの製品開発・修正を重視し、同一車種のブランドを地域ごとに変えていたことさえある。
3.3グローバル・マーケティング戦略
・グローバル・レベルでの「規模の経済」「範囲の経済」の追求
第1に、グローバル合理化段階におけるR(マーケティング調査)には、世界の各拠点市場の競争状況、需要条件、供給条件等についての調査データの本社データベースへの統合化が必要となる。それを基礎としてグローバル視点より製品や部品の共通化、最適なロジスティクス、ソーシング機会等について調査・分析が進められる。
・ グローバル・セグメントの識別とグローバル統合システムの開発
第2に、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)戦略。ここでは各国市場横断的に存在するいくつかの同質的なグローバル・セグメントの識別が行われる(S)、激烈な競争が繰り広げられているグローバル市場では自社が世界的競争力をもつ特定のグローバル・セグメントを選択する(T)、その維持・発展に経営資源を集中することが多い。そこでは価格の安さ、品質の良さ、スピードの速さ、優れたカスタム化等が同時達成できないと競争に勝ち残ることができず、それらを達成できるグローバル統合システムの開発が行われ、その優位性が訴求される(P)。
第3に、この段階でのMM(マーケティング・ミックス)戦略では、世界的統一化と現地適応化のそれぞれの利点を同時に達成できるミックスの提供が試みられる。
第4に、そうしたマーケティングの実施(I)後に、マーケティング・コントロール(C)が行われるが、ここではグローバル連結ベースでの利益最大化、適正な事業ポートフォリオ・バランスの達成(企業は事業の多角化によってリスクを分散でき、また、それらをうまく組み合わせることによってシナジー効果を得ることができる。そのバランスのこと)を考慮に入れた調整とコントロールが行われる。
以上が、3段階の国際マーケティング・マネージメントの特徴である。(2)
4 ナレッジ・マネジメント・サイクル論
4.1 ナレッジ・マネジメントにおけるサイクル
多国籍企業が知識(ナレッジ)をグローバル規模で移転・共有するのにもっとも効果的なメカニズムは何であろうか。我々の研究によれば、知識マネジメントのプロセスにおいて、3つの主要な要素が明らかになった。それらは、アクセス・融合・活用といった段階である。これらをさらに、分割し、7つの異なった段階として表したものが7Aモデルである。
4.2 7Aモデル
7Aとは、予知、認知、獲得、専有、吸収、蓄積、分配のことである。知識を能力に関するものと市場に関するものに大別すると、7Aの流れは、その両方の場合に適用する。(3)
出所:Doz et al (1997)
おわりに
今後の国際マーケティングの課題
21世紀に入っても、国際経営におけるマーケティングの役割は、顧客本位、顧客価値、顧客満足の重視という経営哲学として、その重要性をますます増している。また、これまでマーケティング関連部門が開発・洗練化してきた顧客に関する概念やその分析ツール、ナレッジは、今後とも創造的な経営の実践によって不可欠のものである。
例えば、パソコン業界でもDell Computerは、顧客の指定するハードとソフトの組み合わせのコンピュータを電話やインターネットで受注して届けるシステムで成功している。ソニーは、エンターテイメント性に優れたパソコンおよび周辺機器の開発において、世界的な評価を受けている。
参考文献
(1)『新・国際経営』竹田志郎著.33-34頁。
(2)『国際経営論への招待』吉原英樹著.82-101頁。
(3)『グローバル経営入門』淺川和宏.186-188頁。
図表
(1)ナレッジ・マネジメント・サイクル:7Aフレームワーク(出所:Doz et al 1997)

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